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  • ありふれたテーマについて徹底的に考えてみる - 滝川裕英編『問いかける法哲学』(法律文化社)雑感 -

    2022年09月26日

    書評
    法哲学
    瀧川裕英
    ありふれたテーマについて徹底的に考えてみる - 滝川裕英編『問いかける法哲学』(法律文化社)雑感 -

    インターネット、とりわけ Twitter などの普及によって人々が単に情報をシェアするだけでなく、なにかしらのトピックについて論争することも珍しくなくなってきた。人々が議論を行い、互いに知見を深めていくというような理想的な展開になることは少ないけれども、それでも議論が行われそれ…


  • 歴史の多面性を知る - 川北稔『イギリス近代史講義』(講談社現代新書)雑感 -

    2022年09月19日

    書評
    世界史
    川北稔
    歴史の多面性を知る - 川北稔『イギリス近代史講義』(講談社現代新書)雑感 -

    イギリスという国についてどのようなイメージを持っているだろうか。2022 年 9 月 8 日にエリザベス女王が亡くなったことが報道され、イギリスの女王が亡くなったということは知っている。他方で私自身はこの国について知っていることはあまりに少ないことにも気づいた。  本日紹介した…


  • 前向きに哲学する - 御子柴善之『自分で考える勇気−カント哲学入門』雑感 -

    2022年09月12日

    書評
    哲学
    御子柴善之
    前向きに哲学する - 御子柴善之『自分で考える勇気−カント哲学入門』雑感 -

    今回紹介するのは御子柴善之『自分で考える勇気 − カント哲学入門』(岩波ジュニア新書)。哲学といえばカントはビックネームであるがその難解さやとっつきにくさもあり、そもそも何を言っているかはそれほど知られていないと個人的には思う哲学者である。しかし、本書はそうしたわかりにくいと思…


  • 人間の偉大と悲惨を知る - 遅塚忠躬 『フランス革命−歴史における劇薬』(岩波ジュニア新書295)雑感 -

    2022年09月05日

    書評
    フランス革命
    世界史
    遅塚忠躬
    人間の偉大と悲惨を知る - 遅塚忠躬 『フランス革命−歴史における劇薬』(岩波ジュニア新書295)雑感 -

    本というのは内容が大事なのであるから外見や肩書はそれほど重要ではないと考えたくなる。しかし、本の表紙は手をとるきっかけになるし、出版社名やシリーズ名が必ずしも本の内容のクオリティを担保しないのだけれども、それでも一応それなりの権威があるので読むときの参考にはなるであろう。それゆ…


  • 哲学したいならこれを読もう - 佐藤岳詩『メタ倫理学入門―道徳のそもそもを考える』(勁草書房)雑感 -

    2022年08月29日

    書評
    倫理学
    佐藤岳詩
    哲学したいならこれを読もう - 佐藤岳詩『メタ倫理学入門―道徳のそもそもを考える』(勁草書房)雑感 -

    道徳的な事柄、たとえば人工妊娠中絶や肉を食べていいかどうかという問題はそれ自体が非常に論争的であるとともに、道徳とはそもそもわれわれが論じるに値することなのかという懸念も付きまとっている。というのも、道徳は人それぞれであったり、あるいは時代や場所によって変わると思われるからだ。…


  • 複雑な迷路を概観する - 信原幸弘編『ワードマップ 心の哲学 新時代の心の科学をめぐる哲学の問い』(新曜社)雑感 -

    2022年08月22日

    書評
    心の哲学
    信原幸弘
    複雑な迷路を概観する - 信原幸弘編『ワードマップ 心の哲学 新時代の心の科学をめ�ぐる哲学の問い』(新曜社)雑感 -

    哲学の難しいところは「なんとなくでいいから哲学のことを知りたい」と思うときになかなかその願望に見合うような本がないことである。これは哲学書というものがだいたい長いものであるという事情もあるし、新書や文庫でもだいたいひとつのことがテーマとなっており、たしかに最初から知りたいことが…


  • 資本主義社会に必要不可欠なもの - デイヴィッド・ガーランド(小田徹訳)『福祉国家―救貧法の時代からポスト工業社会へ』(白水社)雑感 -

    2022年08月15日

    書評
    デイヴィッドガーランド
    資本主義社会に必要不可欠なもの - デイヴィッド・ガーランド(小田徹訳)『福祉国家―救貧法の時代からポスト工業社会へ』(白水社)雑感 -

    今回紹介するのはデイヴィッド・ガーランド(小田徹訳)『福祉国家―救貧法の時代からポスト工業社会へ』(白水社)である。福祉という非常に論争が絶えないテーマについて、本書は歴史と理論から解説を試みている。  第一章では福祉国家とはそもそもなんなのかという根本的な問いかけがなされてい…


  • 誤解されやすい進化理論を読み直す - 長谷川寿一・長谷川眞理子・大槻久『進化と人間行動』(第二版)(東京大学出版会)雑感 -

    2022年08月08日

    書評
    進化
    長谷川寿一
    長谷川眞理子
    大槻久
    誤解されやすい進化理論を読み直す - 長谷川寿一・長谷川眞理子・大槻久『進化と人間行動』(第二版)(東京大学出版会)雑感 -

    「進化」という概念はとても理解しにくいものである。それは「進歩」や「進展」などと結び付けられやすいという事情もあれば、とりわけ人間を進化の観点から語ること自体がタブーのような空気さえある。他方でわれわれが進化によって生じてきたホモ・サピエンスであることはそれなりに認められる以上…


  • 豊かな倫理のそのさきへ - 品川哲彦『倫理学入門 アリストテレスから生殖技術、AIまで』(中公新書)雑感 -

    2022年08月01日

    書評
    倫理学
    品川哲彦
    豊かな倫理のそのさきへ - 品川哲彦『倫理学入門 アリストテレスから生殖技術、AIまで』��(中公新書)雑感 -

    倫理や道徳について考える学問の一つに倫理学という分野がある。古くはアリストテレスからはじまる学問分野であるが、技術の発展などにより生命倫理、ロボット倫理なども含むような古くて新しい学問分野である。最近は倫理学の本が流行っているのか入門書もたくさん書かれるようになった。倫理学の分…


  • ニーチェの新しい読み方 - ブライアン・ライター(大戸雄真訳)『ニーチェの道徳哲学と自然主義『道徳の系譜学』を読み解く』(春秋社)雑感 -

    2022年07月25日

    書評
    哲学
    ニーチェ
    ブライアンライター
    ニーチェの新しい読み方 - ブライアン・ライター(大戸雄真訳)『ニーチェの道徳哲学と自然主義『道徳の系譜学』を読み解く』(春秋社)雑感 -

    ニーチェとはどのような哲学者、思想家であるといえるだろうか。ニーチェほど象徴的な、ある意味わかりやすい哲学者像はないかもしれない。語彙的な難解さ、いわゆる哲学的な文章とは一線を画するアフォリズム的な文体の援用、そして相手を小馬鹿にするような挑発的な語り口。こうした反社会的、露悪…


  • エッセイの軽快な難しさ - 村上春樹・安西水丸『村上朝日堂』(新潮文庫)雑感 -

    2022年07月18日

    書評
    村上春樹
    安西水丸
    エッセイの軽快な難しさ - 村上春樹・安西水丸『村上朝日堂』(新潮文庫)雑感 -

    エッセイの難しさは次の二つを両立させることの難しさにある。一つは気楽に読めることであり、もう一つは含蓄なり、教訓を付け加えなければならないことだ。気楽に読める文章はその文や単語の優しさだけでなく、文体の軽快さや話題があまり重くならないことなどいくつかのことを考えなければならない…


  • 技術と倫理の微妙な関係 - 『ロボットからの倫理学入門』雑感 -

    2022年07月11日

    書評
    ロボット
    倫理学
    久木田水生
    神崎宣次
    佐々木拓
    技術と倫理の微妙な関係 - 『ロボットからの倫�理学入門』雑感 -

    世の中の問題は技術の進歩と切り離せないように思われる。技術が進歩すると社会やわれわれの生活はとても便利になるということは明らかだろう。インターネットやスマートフォンの技術の発展はわれわれの生活のあり方それ自体をかえてしまっている。われわれのコミュニケーションは直接会ってその場で…


  • 社会学を真正面から考える - ケン・プラマー(赤川学監訳)『21世紀を生きるための社会学の教科書』ちくま学芸文庫 雑感 -

    2022年07月04日

    書評
    社会学
    ケンプラマー
    社会学を真正面から考える - ケン・プラマー(赤川学監訳)『21世紀を生きるための社会学の教科書』ちくま学芸文庫 雑感 -

    社会学という学問を語るときによく言われるのはその掴みどころのなさであろう。たとえば社会学という単語は家族社会学、地域社会学というような堅いイメージのものからアニメの社会学、ゲームの社会学というソフトなものまで幅広い。この幅広さは社会学という学問の可能性を感じると同時に「それはも…


  • 掴みづらいものを掴む - 信原幸宏『情動の哲学入門 価値・道徳・生きる意味』雑感 -

    2022年06月27日

    書評
    情動
    信原幸宏
    掴みづらいものを掴む - 信原幸宏『情動の哲学入門 価値・道徳・生きる意味』雑感 -

    今回紹介するのは信原幸宏『情動の哲学入門 − 価値・道徳・生きる意味 −』である。本書は三部から成り立っており、全部で九章となっている。一部に三章ずつ振り分けられておりバランスの良い構成になっている。  第一部「価値と情動」では価値と情動のもつ関係性が論じられる。第一章では情動…


  • 働くってどういうこと? - 筒井淳也『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)雑感 -

    2022年06月20日

    書評
    社会学
    筒井淳也
    働くってどういうこと? - 筒井淳也『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)雑感 -

    今回紹介するのは筒井淳也『仕事と家族-日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)である。  第一章「日本は今どこにいるか?」では日本の労働や家族のあり方について論じるために各国と比較しながら日本の立ち位置を明らかにする。まず指摘されるのは「工業化」である。18世紀のイギ…


  • そもそもの議論の前提を問う - 赤川学『これが答えだ!少子化問題』(ちくま新書)雑感 -

    2022年06月13日

    社会学
    少子化
    赤川学
    そもそもの議論の前提を問う - 赤川学『これが答えだ!少子化問題』(ちくま新書)雑感 -

    少子化問題はかなり身近な問題である。自分が子供を持つか持たないかという個人の生き方にもかかわるし、今後日本という国がどのような発展を遂げるかについてもかかわってくる。そしてあまりにも身近な問題なので素人でもあれこれ言いやすいのも少子化問題の特徴だと思われる。「もっと子供をもつ親…


  • 難しい問題をちゃんと考える。 - ローレンス・J・シュナイダーマン、ナンシー・S・ジェッカー(林令奈、赤林朗訳)『間違った医療 医学的無益性とは何か』(勁草書房)雑感 -

    2022年06月06日

    書評
    医療倫理
    ローレンスJシュナイダーマン
    ナンシーSジェッカー
    難しい問題をちゃんと考える。 - ローレンス・J・シュナイダーマン、ナンシー・S・ジェッカー(林令奈、赤林朗訳)『間違った医療 医学的無益性とは何か』(勁草書房)雑感 -

    よい人生は死に際で決まる。そんな考え方もあるかもしれない。どう生きるかという問いかけは常にどう死ぬかという問いかけも含んでいる。それゆえ、もし可能であるならば「ちゃんと死ぬ」というのも人生において尊重されるべき判断と言えるのではないか。  今回紹介するのはローレンス・J・シュナ…


  • 友だちは百人できるかもしれない。 - ロビン・ダンバー(吉嶺英美訳)『なぜ私たちは友だちをつくるのか 進化心理学から考える人類にとって一番重要な関係』(青土社)雑感 -

    2022年05月30日

    書評
    心理学
    ロビンダンバー
    友だちは百人できるかもしれない。 - ロビン・ダンバー(吉嶺英美訳)『なぜ私たちは友だちをつくるのか 進化心理学から考える人類にとって一番重要な関係』(青土社)雑感 -

    友だちとはよく考えると不思議な存在である。家族でも恋人でもない不思議な関係だ。そして友だちはよく入れ替わるのも特徴である。進学先や住む場所でも違うし、お互いの状態が異なれば疎遠になったり、仲良くなったりする。最近では SNS の発展によってこうした友だち関係はオンライン上の関係…


  • 一冊の本を多角的に読む - 城戸淳『ニーチェ 道徳批判の哲学』(講談社選書メチエ) -

    2022年05月23日

    書評
    ニーチェ
    城戸淳
    一冊の本を多角的に読む - 城戸淳『ニーチェ 道徳批判の哲学』(講談社選書メチエ) -

    読書とはそもそもどういうことなのかについて考えてみよう。本は一回読めば十分であるかもしれないし、お気に入りの本は繰り返し読むということはあるかもしれないが、それでも様々な本を参照しながら一冊の本を読むということはなかなかないかもしれない。とはいえ一冊の本がその本だけで完結してい…


  • みんなで決めるのはよいことか? - 坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』雑感 -

    2022年05月16日

    書評
    社会的選択理論
    坂井豊貴
    みんなで決めるのはよいことか? - 坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』雑感 -

    今回紹介するのは坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(岩波書店)[以下、「本書」とする]。  第一章では多数決そのものを吟味している。というのも多数決において多数意見は尊重されているということが疑わしいからである。本書では 2000 年のアメリカ大統領選挙におけるブ…


  • 気分を変えるためのいくつかのこと

    2022年05月09日

    エッセイ
    気分を変えるためのいくつかのこと

    聴かない音楽を聞いてみる  いわゆるサブスクの普及により音楽も好きなだけ聞くことができるようになってきました。これだけ曲が聞けるとなると何を聞きたくなるか迷うかもしれません。たしかにユーザーの好みに合わせておすすめの曲をサジェストしてくれる機能などがあるので、選ぶのがめんどくさ…


  • 性格について考えるのは意外と難しい - 小塩真司『性格がいい人、悪い人の科学』(日経BP)雑感 -

    2022年05月02日

    書評
    心理学
    小塩真司
    性格について考えるのは意外と難しい - 小塩真司『性格がいい人、悪い人の科学』(日経BP)雑感 -

    今回紹介するのは小塩真司『性格がいい人、悪い人の科学』(日経 BP)(以下、「本書」と表記する)。まずは内容を紹介しよう。  第一章では性格を判定する方法が論じられる。一つは類型であり、もう一つは特性である。類型は古くから用いられていた方法である。「怒りっぽい人」「やさしい人」…


  • 現代的な倫理学入門 - 児玉聡『功利主義入門』(ちくま新書)雑感 -

    2022年04月25日

    書評
    功利主義
    児玉聡
    現代的な倫理学入門 - 児玉聡『功利主義入門』(ちくま新書)雑感 -

    今回紹介するのは児玉聡『功利主義入門』(ちくま新書)[以下、「本書」と表記する]である。この本は功利主義という倫理学の理論のなかの一つを紹介するだけでなく、倫理学の入門書になっている。本書によれば倫理を学ぶ方法は2つある。一つは人に暴力を振るってはならないと言うような社会の中で…


  • 読みやすさと学術性の両立 - 小林佳世子. (2021). 最後通牒ゲームの謎 進化心理学からみた行動ゲーム理論入門. 日本評論社.雑感 -

    2022年04月18日

    書評
    進化心理学
    経済学
    小林佳世子
    読みやすさと学術性の両立 - 小林佳世子. (2021). 最後通牒ゲームの謎 進化心理学からみた行動ゲーム理論入門. 日本評論社.雑感 -

    学術的な本を読むときに一番気になるのは読みやすさと学術的な信頼性である。もちろん、学術的な本にもいろいろあり、研究者が読む専門書から一般的な読者が読むことを想定している啓蒙的な本まで幅広いのだがそれでも著者がわれわれにどれほど読みやすくしてくれるかというところが気になってしまう…


  • 市場は遍在する - 松井彰彦『市場って何だろう 自立と依存の経済学』(ちくまプリマー新書)雑感 -

    2022年04月11日

    書評
    経済学
    松井彰彦
    市場は遍在する - 松井彰彦『市場って何だろう 自立と依存の経済学』(ちくまプリマー新書)雑感 -

    市場という単語を見るととてもぎょっとする。弱肉強食、拝金主義、結果至上主義という単語も同時に頭に浮かぶし、冷酷な雰囲気が漂うからだ。そしてこの市場に参加できないもの、排除されるものは無価値であり、社会に役立たないものとして考えられるかもしれない。他方で市場が役立つのも事実である…


  • 功利主義を見渡す - 『功利主義とは何か』雑感 -

    2022年04月04日

    書評
    倫理学
    ピーターシンガー
    功利主義を見渡す - 『功利主義とは何か』雑感 -

    「功利主義」というのはよくもわるくもインパクトがある単語であるようにおもわれる。一方ではその単語に冷酷さや非人間性を感じ取る人もいるであろうし、他方では功利主義とはいってもそんなものがほんとに可能なのかという疑問を持つ人もいるであろう。こうした相反する反応は功利主義という思想の…


  • スタンダードというよりはオルタナティブな入門書 - 瀧澤弘和『現代経済学』(中公新書)雑感 -

    2022年03月28日

    経済学
    ゲーム理論
    行動経済学
    瀧澤弘和
    スタンダードというよりはオルタナティブな入門書 - 瀧澤弘和『現代経済学』(中公新書)雑感 -

    経済学の入門書を読むとだいたいミクロ経済学、次にマクロ経済学と進む。小さなものから大きなものへ、基礎的なものから応用的なものへという流れは入門書、教科書として定番の流れであるし、実際そのように記述するのは読者の理解を促すためにもよいのであろう。しかしながら経済学という学問が今現…


  • 人間を描く - 森博嗣『キシマ先生の静かな生活』雑感 -

    2022年03月21日

    書評
    森博嗣
    人間を描く - 森博嗣『キシマ先生の静かな生活』雑感 -

    学問の純粋さ、そしてその人間らしさについて筆者はほとんど森博嗣の著作から影響を受けている。『すべてが F』になるでデビューした森博嗣の作品には大学で研究する研究者、つまり教授、准教授(助教授)、助手、院生が登場する。森博嗣自身が大学の研究者であったこともあり、彼が執筆する作品に…


  • 身近なもので哲学する - ジンメル『橋と扉』雑感 -

    2022年03月14日

    書評
    ジンメル
    身近なもので哲学する - ジンメル『橋と扉』雑感 -

    哲学をする際に困難な問題としてその語り口なり文章の小難しさもあるだろうが、扱っている対象そのものが抽象的(意識、自由など)であるというのが挙げられる。つまりそもそも扱っているテーマなり対象が身近ではないのでそれについて普段からどうおもっているかというきっかけすらないのでどこから…


  • これこそ新書である - 坂井豊貴『ミクロ経済学入門の入門』 (岩波新書) 雑感 -

    2022年03月07日

    書評
    経済学
    坂井豊貴
    これこそ新書である - 坂井豊貴『ミクロ経済学入門の入門』 (岩波新書) 雑感 -

    このブログを書くようになってから新書をよく読むようになった。新書は手に入りやすいし、ハードカバーなどに比べて比較的頁も短くはやく読めるように思われたからだ。しかしながら、こうした期待は裏切られることも少なくない。意外に読むのに時間がかかるのだ。学問的誠実さか出版社の良心的態度な…


  • 経済学の考え方を頭になじませる - 飯田泰之『経済学講義』(ちくま新書)雑感 -

    2022年02月28日

    書評
    経済学
    飯田泰之
    経済学の考え方を頭になじませる - 飯田泰之『経済学講義』(ちくま新書)雑感 -

    生活の中にあまりにも経済が溶け込みすぎている一方で、「経済学」なるものはわれわれの普段の日常的な言葉、思考、考え方からして異なっているように思われるからかなんだかとっつきにくいイメージがある。もちろん、経済学に限らずあらゆる学問に入門する際にその特有の言葉遣い、概念、思考方法に…


  • 道徳的なわれわれたち - マイケル・トマセロ(中尾央訳)『道徳の自然誌』(勁草書房)雑感 -

    2022年02月21日

    書評
    道徳
    マイケルトマセロ
    中尾央
    道徳的なわれわれたち - マイケル・トマセロ(中尾央訳)『道徳の自然誌』(勁草書房)雑感 -

    道徳について考えるのは必ずしも倫理学だけではない。進化論や心理学などの手法を用いて道徳を考える道徳心理学という分野が存在する。こうした手法は経験論的なデータを活用することもあって従来の倫理学では与えられないような知見を与えてくれる。しかしながら、どうしてもそうした分野で語られる…


  • 他人が気になってしまう私達 - 唐沢かおり『なぜ心を読みすぎるのか みきわめと対人関係の心理学』(東京大学出版会)雑感 -

    2022年02月14日

    書評
    心理学
    唐沢かおり
    他人が気になってしまう私達 - 唐沢かおり『なぜ心を読みすぎるのか みきわめと対人関係の心理学』(東京大学出版会)雑感 -

    今回紹介するのは唐沢かおり『なぜ心を読みすぎるのか: みきわめと対人関係の心理学』(東京大学出版会)である(以下、「本書」と表記し、引用する際にはページ数飲みを記す)。本書の中でも個人的に重要であるとおもわれる箇所についてのみ触れながら本書を紹介したい。  本書の目的について知…


  • 理想と人間性の間 - ミル『功利主義』(岩波文庫)雑感 -

    2022年02月07日

    哲学
    J.S.ミル
    関口正司
    理想と人間性の間 - ミル『功利主義』(岩波文庫)雑感 -

    今回紹介するのは J.S.ミル(関口正司訳)『功利主義』(岩波文庫)である[以下、「本書」と表記し、引用する際には頁数のみを表記する]。功利主義というと計算高く、優しさや愛情といったものを否定するイメージが強い。また功利主義が道徳の理論であるというのは一見したところ不思議に思え…


  • 透明な暴力 - 村上春樹「パン屋再襲撃」雑感 -

    2022年01月31日

    書評
    村上春樹
    透明な暴力 - 村上春樹「パン屋再襲撃」雑感 -

    今回紹介する「パン屋再襲撃」[村上春樹『パン屋再襲撃』(文春文庫)所収、引用する際にはページ数のみを表記する]はとある夫婦の「襲撃」を描くものである。  物語のあらすじは次のようなものだ。  ある深夜に夫婦があまりの空腹で眠れなくなってしまった。冷蔵庫にはなにもなくコンビニもな…


  • 素晴らしき司法の独立とその現実 - 森炎『裁判所ってどんなところ?―司法の仕組みがわかる本―』雑感 -

    2022年01月24日

    書評
    法学
    森炎
    素晴らしき司法の独立とその現実 - 森炎『裁判所ってどんなところ?―司法の仕組みがわかる本―』雑感 -

    今回紹介するのは森炎『裁判所ってどんなところ?―司法の仕組みがわかる本―』(ちくまプリマー新書)[以下、「本書」と表記する]である。本書の概要は次のとおりである。  「第一章 日本の裁判所はいつからあるか」では日本の裁判所の歴史が論じられる。「遠山の金さん」のイメージで語られる…


  • 村上作品のいいとこ取り - 村上春樹『カンガルー日和』(講談社文庫)雑感 -

    2022年01月17日

    書評
    村上春樹
    村上作品のいいとこ取り - 村上春樹『カンガルー日和』(講談社文庫)雑感 -

    最近紹介する本を読むのも文章を書くこともスランプ気味なので困ったときの村上春樹ということで今回紹介するのは村上春樹『カンガルー日和』(講談社文庫)である(以下、「本書」と表記する)。個人的には村上春樹の短編集のなかでも爽やかであまりドロドロしていない話が多いので何も読みたくない…


  • 倫理学をやってみる - 児玉聡『実践・倫理学』(勁草書房)雑感 -

    2022年01月10日

    書評
    倫理学
    児玉聡
    倫理学をやってみる - 児玉聡『実践・倫理学』(勁草書房)雑感 -

    近年、国内における倫理学をめぐる状況はかなりの進展を見せているようにおもわれる。まず指摘できる代表的な流れとしてメタ倫理や道徳心理学といった分野における重要な文献が出版されたことが挙げられる[佐藤『メタ倫理学入門』(勁草書房)、太田編『モラル・サイコロジー』(春秋社)]。こうし…


  • モラリティーとジャッジメント - 村上春樹「納屋を焼く」雑感 -

    2022年01月03日

    書評
    村上春樹
    モラリティーとジャッジメント - 村上春樹「納屋を焼く」雑感 -

    小説とはなにかというのは難しい問題であるが優れた小説というのは読者にある種の読後感を残すものであるいというのはそれほど的はずれなことではないであろう。それは一種のポジティブな感情かもしれないし、あるいはネガティブな感情かもしれない。どちらにせよ読者になにかしらのメッセージが伝わ…


  • 哲学を組み立て、分解する - バッジーニ、フォスル『哲学の道具箱』(共立出版)雑感 -

    2021年12月27日

    書評
    哲学
    ジュリアンバッジーニ
    ピーターフォスル
    哲学を組み立て、分解する - バッジーニ、フォスル『哲学の道具箱』(共立出版)雑感 -

    今回紹介するのはバッジーニ、フォスル『哲学の道具箱』(共立出版)だ(以下、本書と表記し印象する際には頁数のみを表記する)。  「第一章 論証の基本ツール」では「演繹」「帰納法」といった基本的なツールを紹介している。論理学の教科書のような堅苦しい説明が行われるかとおもいきや親しみ…


  • 真実を語ろうとすること - プラトン『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)雑感 -

    2021年12月20日

    書評
    哲学
    プラトン
    真実を語ろうとすること - プラトン『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)雑感 -

    今回紹介するのはプラトン『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)である(以下、『弁明』と表記し、引用する際には頁数のみを表記する)。ソクラテスは哲学者のイメージそのものであるといってよいであろう。誰彼構わず議論を行い、相手の主張の弱点を突いて困らせる。真実の追求のためなら金や…


  • 見えづらい多様性と向き合うために - 村中直人『ニューロダイバーシティの教科書: 多様性尊重社会へのキーワード』 金子書房雑感 -

    2021年12月13日

    書評
    多様性
    村中直人
    見えづらい多様性と向き合うために - 村中直人『ニューロダイバーシティの教科書: 多様性尊重社会へのキーワード』 金子書房雑感 -

    今回紹介するのは村中直人『ニューロダイバーシティの教科書: 多様性尊重社会へのキーワード』 である(以下、『本書』と表記し引用する際には頁数を標記する)。  第 1 章ではニューロダイバーシティとはそもそも何かが論じられる。ニューロダイバーシティとは neuro と diver…


  • コーヒーが切り出す生活

    2021年12月06日

    エッセイ
    コーヒー
    コーヒーが切り出す生活

    寒くなってきた 12 月。コーヒー屋へと足を運ぶ。お店にはよく知っているコーヒー豆からそうでないものまで何種類か並んでいる。 「いつもはこれを飲んでいるのですが」と指で示す 「ありがとうございます」と店主が応える。 「季節の変わり目なのでなにか冬らしいコーヒーを」 「こちらのブ…


  • 道徳を実験する - 亀田達也『モラルの起源』(岩波新書)雑感 -

    2021年11月29日

    書評
    道徳
    亀田達也
    道徳を実験する - 亀田達也『モラルの起源』(岩波新書)雑感 -

    モラルというとどうしても人それぞれの問題だとおもわれてしまう。「正義は人それぞれ」「だれかの正義は別の人の不正義」といったフレーズはよく知られているであろう。また道徳や倫理というのは哲学者、たとえばアリストテレス、カントといった昔の人が考えるものであるというイメージもある。彼ら…


  • 誤謬を繰り返さないために - ニーチェ『偶像の黄昏』雑感 -

    2021年11月22日

    書評
    哲学
    ニーチェ
    誤謬を繰り返さないために - ニーチェ『偶像の黄昏』雑感 -

    ニーチェという哲学者はとても厄介な存在で哲学をするうえでは避けることはできないし、そのまま読むにはあまりにも刺激的である。ニーチェが「理性」「神」「道徳」などを批判するその激しさはわれわれの良識さえも揺さぶるからだ。今回とりあげる『偶像の黄昏』(以下、河出文庫版より引用し、頁数…


  • 読み手にわかりやすい文章を - 本多勝一『〈新版〉日本語の作文技術』(朝日新聞出版)雑感 -

    2021年11月15日

    書評
    文章作成
    本多勝一
    読み手にわかりやすい文章を - 本多勝一『〈新版〉日本語の作文技術』(朝日新聞出版)雑感 -

    「そういえば日本語の文章の書き方がわからない」と友人に話したところ「おすすめである」と教えてくれたのが今回紹介する本多勝一『〈新版〉日本語の作文技術』(朝日新聞出版)(以下、『本書』と表記し引用する際には頁数のみを表記する)。文章を書くことはとても苦痛なことであり、このようにサ…


  • 地続きの異国 - ヤンソン『ムーミン谷の冬』雑感 -

    2021年11月08日

    書評
    ムーミン
    トーベヤンソン
    地続きの異国 - ヤンソン『ムーミン谷の冬』雑感 -

    現在ほどインターネットもスマートフォンも普及していなかった頃、深夜のコンビニはやることが見つからないどうしようもない時間をつぶせる唯一の場であった。客も店員も少ない店内、がらんとした駐車場、無音のなかにときどき響くエンジン音。深夜のコンビニは行き慣れているけれどいつもと違う異空…


  • 哲学の新たなスタンダード - 植原『自然主義入門』雑感 -

    2021年11月01日

    書評
    哲学的自然主義
    植原亮
    哲学の新たなスタンダード - 植原『自然主義入門』雑感 -

    今回紹介するのは植原亮『自然主義入門』(勁草書房)である(以下、『本書』と表記し、引用する際には頁数のみを表記する)。  本書の概要は次のようになっている。  「はしがき」では本書の方法論、著述のスタイルが述べられている。本書で問題とするのは「人間の心には何が生まれつき備わって…


  • もう若くないのだ - 村上春樹『羊をめぐる冒険』雑感 -

    2021年10月25日

    書評
    小説
    村上春樹
    もう若くないのだ - 村上春樹『羊をめぐる冒険』雑感 -

    人はいつ若くなくなるのだろうか。年をとったり、健康に不安が出てきたり、社会的な責任が増えたりということもあるのだろうけれどもここでは精神的な問題にだけしぼって考えてみたい。重要な手がかりとなるのは「青春」である。かつて若者であった人が成長し社会と向き合い、そして身も心も削れてし…


  • 幸せっていったいなんなのさ - 森村進『幸福とは何か』雑感 -

    2021年10月18日

    書評
    哲学
    森村進
    幸せっていったいなんなのさ - 森村進『幸福とは何か』雑感 -

    今回紹介するのは森村進『幸福とは何か』(ちくまプリマー新書)である(以下、「本書」と表記し、引用する際には頁数のみ表記する)。「幸福」というとても大事ではあるが扱いにくい概念にたいして考えていくためのヒントが豊富に含まれている。まずは本書がどのような構成になっているかを見てみよ…


  • 今後、哲学していくために - 次田瞬『人間本性を哲学する』雑感 -

    2021年10月11日

    書評
    哲学
    次田瞬
    今後、哲学していくために - 次田瞬『人間本性を哲学する』雑感 -

    人間らしさってなんだろうか。他人に優しくしたりすることだろうか、それとも他人を徹底的に憎しむことなのだろうか。もしかしたら、人間らしさはそうした感情的なものとは異なる知性的なものかもしれない。たとえば、数学をしたり、言語を使うことは人間を他の動物から区別する一つの目安かもしれな…


  • 政治への参加と責任 - 宇野重規『民主主義とは何か』雑感 -

    2021年10月04日

    書評
    宇野重規
    政治への参加と責任 - 宇野重規『民主主義とは何か』雑感 -

    民主主義という言葉はあまりにも身近であるのでわれわれはそれについて語る際には色んなものを前提してしまっている。たとえば、民主主義は多数決や選挙とほぼイコールであるといった具合にである。さらには「民主主義はなんとなく良いもの」というイメージがあるので表面的には民主主義には賛成して…


  • 倫理学の回り道、あるいは王道 - 佐藤岳詩『倫理の問題とは何か』雑感 -

    2021年09月27日

    書評
    佐藤岳詩
    倫理学の回り道、あるいは王道 - 佐藤岳詩『倫理の問題とは何か』雑感 -

    倫理や道徳という言葉の胡散臭さとは裏腹に道徳や倫理について論じることそれ自体には違和感がなくなってきたようにおもわれる。たとえば、サンデルの『これからの「正義」の話をしよう 』などで知られる「トロリー問題」は 10 年前とは比べ物にならないほど人々に知られるようになっている。T…


  • あっちこっちから出口へ - 村上春樹『1973年のピンボール』雑感 -

    2021年09月20日

    書評
    村上春樹
    あっちこっちから出口へ - 村上春樹『1973年のピンボール』雑感 -

    実はこのブログでは書く題材が見つからないときには村上作品をとりあげるというルールがある。先週も村上春樹作品だったので二週連続でとりあげているわけであるがこれはなかなかピンチである。書く前には書けそうとおもった本がいざ書き出してみるとなにか違うと思い直し結局そのまま放置されている…


  • 向き合わない男たち - 村上春樹『女のいない男たち』雑感 -

    2021年09月13日

    書評
    村上春樹
    向き合わない男たち - 村上春樹『女のいない男たち』雑感 -

    私事であるが初めて読んだ村上春樹作品が今回紹介する『女のいない男たち』である。内容はともかく文体のリズム感が気に入ったのでその後いくつか彼の作品を読んでは「これはよかった」「これはダメだった」を繰り返している。村上作品でも長編は読み終えることができず途中で力尽きてしまうことが多…


  • 「本物」であることは重要なのだろうか? - フィリップ・K・ディック(浅倉 久志訳)『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』雑感 -

    2021年09月06日

    書評
    フィリップKディック
    「本物」であることは重要なのだろうか? - フィリップ・K・ディック(浅倉 久志訳)『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』雑感 -

    今回紹介したいのは映画『ブレードランナー』の原作にもなったディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(以下、本書と表記し、引用の際には Kindle 版の位置 No.を記す)である。本書のあらすじは次のとおりだ。おそらく核戦争後とおもわれる世界で主人公のリックはおもに植民惑…


  • 大人のための倫理学 - アナス『徳は知なり』(春秋社)雑感 -

    2021年08月30日

    書評
    ジュリアアナス
    大人のための倫理学 - アナス『徳は知なり』(春秋社)雑感 -

    道徳的な正しさや不正について考えてみるとうんざりすることがある。「これこれするのは正しい」からすべきであるとか、「これこれするのは不正である」からすべきではないなども胡散臭いものがある。こうした反感をおぼえてしまうのはそれが単に綺麗事であるからというだけではなく、なにかわれわれ…


  • 気持ちは論じれるのか - 源河『感情の哲学入門講義』雑感 -

    2021年08月23日

    書評
    源河亨
    気持ちは論じれるのか - 源河『感情の哲学入門講義』雑感 -

    「議論では感情的になってはいけない」、「感情は気まぐれなので信用できない」といった感情のイメージはとても根強い。なにかを論じたり語ったりする場合にはとりわけそういう態度が要請されることになる。たしかにわれわれはエビデンスやきちんとした手続きに基づいて物事を論じたり、決定したりす…


  • 優れたひとになってもよいのか? - 佐藤『心とからだの倫理学』雑感 -

    2021年08月16日

    書評
    佐藤岳詩
    優れたひとになってもよいのか? - 佐藤『心とからだの倫理学』雑感 -

    より美しく、より賢く、より強くなりたいという願望をもつことはそれほど珍しいことではない。この願望が満たされないがゆえに苦しむこともあるだろうし、そのためならどんな努力も惜しまないであろう。そのために化粧やダイエット、受験や資格の勉強、筋力トレーニングといったものに人々は時間とお…


  • 論破っていったいどうやるの? - ウェストン『論証のルールブック』雑感 -

    2021年08月09日

    書評
    アンソニーウェストン
    論破っていったいどうやるの? - ウェストン『論証のルールブック』雑感 -

    論破という言葉はよく聞くが実のところこの単語が何を意味しているのかはなかなか不明瞭である。この単語はネットの議論でよく使われている。それは KO 宣言であったり、議論に参加しない第三者の評価でもあったりするかもしれない。そんなボクシングのような言葉の殴り合いとして「議論」とされ…


  • モラルとは違うところへ - モーム『月と六ペンス』雑感 -

    2021年08月02日

    書評
    サマセットモーム
    モラルとは違うところへ - モーム『月と六ペンス』雑感 -

    生き方について考えることはとても贅沢なことである。2021 年の夏を生きている人々からすればこれから世界はどうなってしまうのかという大きな問題と自分たちはどうやって食っていけばいいのかという切実な問題に向き合わざるをえないのが現状である。しかし、生き方というのはどうしても人生に…


  • 「不毛な」伝達への試み - 村上春樹『風の歌を聴け』雑感 -

    2021年07月26日

    書評
    村上春樹
    「不毛な」伝達への試み - 村上春樹『風の歌を聴け』雑感 -

    発信しやすい世界になったように思う。2021 年の現在、われわれはパソコンやスマートフォンなどを用いて文字も画像も発信できる世界を生きている。だがこの一方通行の発信がじっさいに誰かに受け取られ、そこに伝達、すなわちコミュニケーションが成立しているかどうかはそれほど確かではないの…


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